もう定時だから帰ろう
2011年6月29日水曜日
うさぎと先生6
駅のホームで、先生はうさぎに声を掛けました。
「ねえ」
「こんばんは」
うさぎは言いました。
「渡したい物があって」
「これを食べさせてあげたくて」
先生は小さな袋を取り出しました。
「水を沢山吸った音符よ。きっと鯨が喜ぶわ」
さらさらと、袋の中で音符が動いています。
ふたりは試しに、
本の中の鯨に音符を食べさせてみました。
ざわざわと鯨たちがあつまり、
カチカチカチとそれぞれの歌を歌い始めました。
沢山の時計が一度に鳴っているようで、それはとても静かに夜の駅に響き渡りました。
<つづく>
2011年6月22日水曜日
うさぎと先生5
数日後、雨の日。
先生は音楽を聴きに来ました。
「こんばんは」
「みなさんは水槽の」
「中に居ます」
<つづく>
2011年6月3日金曜日
うさぎと先生4
「景色は見ないの?」
「同じくらい、きれいよ」
バシャバシャと、本の中で魚が元気に跳ねました。
「一番好きな魚はどれ?」
ページを開いて、ウサギは言いました。
「鯨」
「鯨は歌うんだよ。でもそれは歌じゃないみたいなんだ。まるで弾けるみたいなんだ
「そして、その歌を聞くと懐かしいような気持ちになる」
「そう」
先生は言いました。
少し気持ちが動揺している事に気が付きました。
先生はこの弾けるような音にとても似ているものを知っていました。
夜はどんどん更けても、
ふたりは沢山遊んでいました。
「今度、いいものをあげる、その鯨に」
先生はうさぎに笑いかけました。
うさぎはよくわからないまま、頷きました。
先生はにじみ出るような切実な気持ちに、少しだけ悲しくなっていました。
<つづく>
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