2014年7月3日木曜日

聞かせたい話




15 聞かせたい話
  
 

僕が、あの小学校の、兎小屋の金網の、ちょっとした破れ目から抜け出したのには、ふたつ理由があります。
 
ひとつは、隣の鶏があまりにもうるさかったこと。
 
もうひとつは、どうしても旅に出たかったからでした。なぜ僕が旅をしたいのか。それに理由はありません。だってそうしたいんです。角切りのリンゴを食べたいと思うのと一緒なんです。
 
果たして僕らの一生に、その欲求を叶えることが必要か、それについては沢山の議論が交わされました。
子供たちにハナと呼ばれる、実の名を海山光子という子は「それは確かに必要よ。でも」と言いました。彼女は、外の危険を良く知っているのです。金網の向こうに待ち受ける、まだ見ぬ危険。その確かな予感は、様々な伝承とともに僕らの遺伝子がしっかりと伝えてくれていました。

ミミ太と呼ばれる最長老の海山桑田郎は、バカを言うな、と叱りつけました。退屈ならばわしがいくらでも話をしてやる。そう、彼は金網の中の語り部です。彼の頭の中には、大きな書棚が確かにあり、いくつもの物語が収納されているのです。
 
しかし、それは、
 
リンゴをめぐる押し問答や、
かたくななダンゴムシが心を開くまでの葛藤
アリの行列のこだわり
よつ葉のクローバーの哲学
飛べない綿毛の運命 
 
など、金網ごしの物語ばかりで、そればかりに耳をすます僕らはますます、心の不思議の罠にかかり、眉間でものを考え悩み、ぷらりやってくる子供たちが起こす風に、やっと赤い目をあげて、ようやく空の青さとお日様と、草のざわめきを知るのでした。
 
海山桑田郎が冷たく固くなり、五本指の大きな手のひらに包まれ小屋を去ったあと、彼が生涯ぴったりと身を寄せ守り隠していた、金網の破れ目が見つかりました。その朝、僕は決めたのです。
桑田郎をしのぶ会のあと、僕はみんなに告げました。
 
みなさん、僕は旅にでます。
 
___お前の事は死んだと思う事にします、と母の海山聡子は言いました。いつも以上に口と鼻をピクリとも動かさず、静かに話す母の声は、不思議に響き、まるで待ち受ける危険が口を聞いているようでした。
 
僕は、こっくりと、うなずきました。
少し間をあけて、母は言いました。もしもお前が帰ってこれたなら、その時は、産まれた日の朝のようにお前の事を迎えましょう、と言いました。
赤く美しい目から、ぽろぽろと透明の涙が流れ落ちました
その時、初めて僕はこれが長い旅になることを知ったのです。
 
良く晴れた月の夜、潮騒ひびく海山小学校を、僕は抜け出しました。

海というものの、広さったらなんでしょう。
道というものの、限りのなさったらなんでしょう。
耳がうけとる風の音の、豊さに僕は驚き、喜び、いつまでもどこまでも跳ねて走り続けました。

そうして、僕はあっという間に、金網のあの小さな小屋のことを忘れてしまいました。

それから何年たつでしょう。危険という危険に出会い、旅をして、僕は僕になりました。僕の頭の中の書棚には、沢山の物語がつめこまれました。

綿毛が海を超えたこと。
見知らぬ土地で目覚めた、黄色いタンポポの背伸び。
長い坂道を身を固めたまんま転がり降りるダンゴムシ。
カンムリになったしろつめ草の恋。
耳でうなる蜂の羽音が、土地によって違うこと。

みんなに話してやりたい事が山ほどです。
けれど、海山小学校への道のりを僕はすっかり忘れてしまいました。

風が耳をなでるたび、僕はふと顔をあげ、誰かに呼ばれた気になってあたりを見渡します。シロと呼ばれた僕の体は、すっかり茶色く汚れ、あの日のこどもたちが僕を見つけても、もう僕とはわからないでしょう。

海山空太、僕の実の名です。かつて僕を、シロ、や、空太と呼んでくれた故郷は、この星のどこかに隠れてしまいました。ときどき、無性に泣きたくなりますが、こらえて僕は旅を続けます。いつか帰ることができたなら、産まれた日の朝のように、声をあげて僕は泣くのでしょう。
 
それにしても、なんて限りのない道でしょう。海でしょう。空でしょう。いつまでもどこまでも、僕は跳ねて走るのです。

作 たみお

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劇団、ユリイカ百貨店の脚本家:たみおさんが
絵にお話を付けて下さいました。

ユリイカ百貨店さんのfacebookページは➡こちら

夏にワークショップと、秋に舞台があるそうです。楽しみ。

舞台の綿密さ、公演チラシのちょっと切なくて懐かしい感覚。
どれもこれも魅力的です。

最近は残念ながらなかなか観に行けていないのですが・・

暗闇が似合う。生活のちょっと先にある見てみたい世界。
女の子なら夢見た事がある世界。
そういうものを形に出来る方だと思います。

嬉しいなぁ!!





2014年6月30日月曜日

お祝い事ワンツーのツーの方

5月に結婚式をした友人のウェルカムボード。
10年来の気心知れた友人です。いいお式だった・・

新婦は音楽療法士、
新郎は教育哲学の研究者。

とってもなごむ、
可愛くって優しそうな先生夫婦。

新婦が大事にしているオコジョの人形を参考にさせて頂きました。







































花ほんと楽しいな。
水面はかなり怪しいです。。思いつきで描いちゃったので。

最近花に接する機会が増えました。
頑張って飾ったりしてます。





2014年6月23日月曜日

お祝い事ワンツー

チマチマ書いていこう。

4月に結婚式を挙げたお友達のウェルカムボード。



写真をお手本に描きました。
新婦のドレス、ちょっとアンティーク調で可愛かった!

お花描くのが最近楽しいです。

お幸せに〜。

2014年6月22日日曜日

おなかスマイル

こんにちは。

お久しぶりに更新です。

お手伝いしたお仕事が公開しています。
glico bifix1000「スッキリを広げよう。おなかスマイル!プロジェクト」
http://www.bifix.jp/project/



私はサイト全体と動画の手書きっぽいイラスト担当です。ちょっとだけやけど。
可愛く動かして貰えたり、提案して貰えたり。
すごく嬉しいし、ありがたいです。

サイトとっても可愛いので、是非見て下さい。

仲間由紀恵さんがタイトルコールされてる!
テンション上がりました。私も買ってこよう〜。


2014年1月13日月曜日

セラと雪の女王のこと

こんばんは。

一つ前の記事で書いた絵本を
レトロ印刷JAMさんのオンラインお店にて取り扱って頂いています。
http://omise.jam-p.com/?pid=68227217

表紙と中身はこのような感じです。

リンクから見て下されば幸いです。

























三条富小路書店2013のこと

去年の話になりますが、
ここ数年参加させて頂いている三条富小路書店さんに、
今年も出品しました。

詳しいイベント概要は→こちら

今年分は印刷の不手際で二週間のうち三日くらいしか展示出来なかったのですが・・
一昨年と去年分を合わせて販売しました。
今年は絵本です。

ギャラリー内です。素敵な手作り本が沢山。


これ普通の本屋さんで売れるだろう、っていう位凝ってる本も多数。
ちゃんと帯付きだったりするものやらしおり付のものやらありました。

私の分はこのような展示になりました。
左から昨年、今年、一昨年分。

何となく、一年に一度本作るぞー、と決めているので
今年も(間に合ってないけど)出来て良かったです。
来年もまたあれば参加したいなぁって思います。
毎年一色刷りなので、来年はフルカラーで作ってみたい。

文字入り絵本は初めてでしたが、予想以上に楽しかったので、
もっと増やしたいと思ってます。
これからも色々楽しい事になる予定です。

2014

 遅ればせ、明けましておめでとうございます。

昨年は年賀状を書いているうちに年が明けました。
今年もどうぞ宜しくお願いします。

最近はことさら、
自分の生活がモヤモヤっした大きい色々な力で成り立ってるんだなぁと感じてます。
忘れちゃいけません。

馬を祀った神社へ初詣に行きました。
人生初めてお正月にアウトレットに行きました。
去年の暮れから暗い小説を読み続けてます。そんな年末年始です。



2013年12月13日金曜日

あいまい@

お久しぶりです。師走ですね。

きっと誰も見ていないだろうと思いつつ、更新です。

もうイベントは終わってしまったのですが、
大好きなDJぎゃさんのイベント「あいまい@」フライヤーの絵を描きました。





「京都っぽくて、子供が夜、こっそり遊びに出かけるような感じ」で、私が今までに
いた夜の絵の感じ、という事でした。なので、四条大橋です。レコードとカセットのアナログ兄妹。

自分が行けなかったのがとても残念ですが、
ぎゃさんのあったかい人柄が伝わる、皆が楽しめるイベントだったようです。
四コマ大喜利があったりとか、あったかい蒸し芋が食べられたりしたみたいです。
(メインはあくまで、たぶん、音楽です。)

ぎゃさんについては→コチラ

お手伝いが出来てとても嬉しかったです。




2013年7月18日木曜日

まな板


唐突ですが実家の宣伝です。
京都産ヒノキ・銀杏のまな板を販売しています。

詳しくはこちら↓
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=436802479738091&set=a.126719640746378.34051.122750714476604&type=1&theater
※お値段は大きさと材料によって異なります
(別ページに価格記載がありますが、時期により変動するかも知れません)。
※銀杏は乾燥に時間が掛かるので、数ヶ月待って頂く事になるかもしれません(そして数に限りがあります)。

通販もしてみたい。。
ご興味ある方は是非一度お問い合わせ下さい。


ニコニコ文学フリマのこと

もうイベント自体は終わってしまったのですが、
4月にあったニコニコ超文学フリマのお手伝いをしたので画像を。

小説家・河内寿々さん一圓光太郎さんによる、
「二代目文藝吉田組」のタブロイド紙表紙を描きました。


古典を現代語訳するという楽しい「超・書いてみた」シリーズです。
出展が終わって、今はニコニコ静画で、今後はkindleで販売されるようです。

河内寿々さんは他にもkindleで本を書いてらっしゃるので下記もご参照下さい。
http://www.amazon.co.jp/%E6%B2%B3%E5%86%85%E5%AF%BF%E3%80%85/e/B00BOGFT96/ref=ntt_athr_dp_pel_1

時代は電子書籍なんだなぁ。絵本とか作ってみたい。
楽しい事に絡ませて貰えて嬉しかったです。